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第24話 怪しい女生徒を探して①

last update Last Updated: 2025-03-12 16:06:38

【10月11日(月)朝/自室】

「びっっくりしたぁ!」

穂香は、まだドキドキいっている胸を手で押さえる。

(そっか、そういうことをしたら、手っ取り早くレンは雑菌まみれになれるんだ)

至近距離のレンを思い出してしまい、頬が熱くなる。なんだかジッとしていられなくて、ベッドから下りると風景が変わった。

【同日 朝/通学路】

いつの間にか制服に着替えた穂香は、レンと並んで登校している。気まずくて、なんとなくレンの顔を見ることができない。

「私達に、あの方法は無理でしょ……」

「どの方法ですか?」

レンに尋ねられて、穂香の頬は赤く染まる。

「どのって、その、キス的な?」

「穂香さん、顔が真っ赤ですよ」

「誰のせいだと思って……って、レンはどうしてそんなに平気なの!?」

少し前まで恋愛初心者同士でオロオロしていたのに、今のレンは涼しい顔をしている。

「平気というか科学者として、研究の一環だと思えば、なんでもできます」

「こ、この研究バカめ……。乙女の唇をなんだと思ってるの? 自分だけ余裕ぶってずるい!」

「ずるいってなんですか? ずるいって」

クスッと笑ったレンは、楽しそうだ。

「こうなったら、文化祭デートで私に惚れさせて、レンの余裕をなくさせるから!」

「まぁ、頑張ってくださいね」

そんなことを言い合っているうちに、校門にたどり着く。いつもは開いている門が、今日は閉まっていた。

「あれ? 今日お休みじゃないよね?」

穂香の問いに、レンは微笑む。

「安心してください。いつもより早い時間にあなたを迎えに行ったんですよ。だから、学校が開くより前に着いただけです」

「なんのために?」

「もちろん、昨日穂香さんが見た怪しい女生徒を探すためです」

「そういえば、そんなこともあったね……」

キスしそうになった衝撃が強すぎて、すっかり忘れていた。

「どうやって見つけるつもりなの?」

「穂香さんがいれば、すぐに見つかりますよ」

閉まった門の前でしばらく待っていると、真っ青な髪が見えた。こちらに近づいてきた松凪先生が門を開けてくれる。

「お前達、いくらなんでも来るの早すぎだろ」

青い瞳は、驚きで見開かれていた。

レンは「少し用事がありまして」と言いながら門をくぐる。いつもならすぐに教室に向かうが、レンは門の付近から動こうとしない。穂香は、そんなレンの耳元で囁いた。

「ここで何をするつもりなの?
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    穴織の姿が見えなくなると、風景が変わる。【同日 夜/自室】(あれ? 次の日まで飛ぶかと思ったら、まだ夜だ。ということは、何かイベントが起こるかも?)しかし、もう夜も遅いので、涼はもちろんのこと、サポートキャラのレンもいない。(私は何をしたらいいの?)部屋の中を見渡すと、机の上におまじないの紙を見つけた。(これ、前に使ったやつだ。おまじないは、この紙を学校のどこかに埋めたら終わりって涼くんが言ってたっけ)ということは、このおまじないは、まだ終わっていないということ。(もしかして……)穂香は使用済みのおまじないの紙を枕の下にもう一度入れた。ベッドに入り、目をつぶるとすぐに意識がまどろんでいく。*【夢の中】教室に、白い制服を着た涼が立っていた。それは、昨日見た夢とまったく同じ光景だった。(やっぱり! このおまじない、まだ終わってなかったんだ!)長い赤髪が風に揺れている。光る武器を持ち佇む涼は、穂香に気がついていない。『来たのか、娘よ。確か名は穂香じゃったかの?』「はい。えっと、あなたは涼くんのおじいさん、ですよね?」『まぁ、そんなものじゃな。おぬしには、特別に【おじいちゃん♡】と呼ばせてやろう』冗談なのか本気なのか分からないので、とりあえず穂香は「あ、ありがとうございます」と返した。「じゃあ、おじいちゃん。涼くんは、どうしたんですか?」

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    「穴織くん、いらっしゃい。ど、どうぞ」「……お邪魔します」脱いだ靴を綺麗にそろえるところに、穴織の育ちの良さがうかがえる。 「私の部屋は2階で……」「あの、白川さん。今、部屋の中に、レンレンがいたような気がしてんけど?」「あ、うん。ちょうど遊びに来ていて……」穴織は「白川さんの、その発言が嘘じゃないことに驚くわ」とため息をついた。「と、言うと?」「だって、白川さんは今日、学校を早退したんやで? 俺も今、抜けてきたところやし…。レンレンがここにおるの、おかしくない?」穴織に嘘はつけない。穂香は本当のことを言うしかなかった。「そのことだけどレンは、登校したら私達が校門で話していて怪しかったから、今日は学校を休んだって言っていて……」「ふーん」こちらに向けられた探るような眼差しがつらい。「わ、私の部屋はこっちだよ」部屋に案内すると、部屋の中からレンが良い笑顔で手を振った。「穴織くん、いらっしゃい」「うぉい!? 白川さんの部屋やのに、自分の部屋のごとく、めっちゃくつろいでるやん!?」穴織からのツッコミを、レンは「穂香さんとは、幼馴染ですので」の一言で片づける。穂香も「本当にレンは、ただの幼馴染で……」と伝えると、穴織に「分かっとる、分かっとるけど……幼馴染って、こんな距離感が普通なん?」ともっともな質問をされてしまった。「さ、さぁ?」

  • 恋愛ゲームの世界から脱出する方法はイケメンからの告白!?   《09番外編》もし、穴織と恋愛していたら⑧

    穴織は「ところで……」と咳払いをする。「さっきも聞いたけど、白川さんは見えないものが見えるだけじゃなくて、ジジィの声も聞こえてるねんな?」探るような視線を向けられた穂香は、素直に「うん」とうなずいた。「え? マジで?」サァと穴織の顔から血の気が引いていく。「俺、なんか変なこと言ってなかった?」「ううん、言ってないよ。でも、穴織くんって何者なの? 嘘が分かるっていってたよね?その『ジジィ?』さんも……」穴織が「あ、あー……」と言いながら困ったように頭をかいた。「うん、まぁ、全部は話されへんけど、話せるところは話すわ。でも、ちょっと待ってほしい。今は、この学校で起こってることを調べなアカンから……」「分かった。私は帰ったほうがいいかな?」「うん、そのほうが助かる! あとで電話するわ」明るい笑顔で手をふる穴織に、穂香が手を振り返すと風景が変わった。【同日 昼/自室】(あっ、学校から家の自室まで飛ばされてる)レンが「おかえりなさい」と微笑んだ。「穂香さん、今日は早かったですね。学校を早退してきたんですか?」「うん。今、学校でおかしなことが起こっていて。って……レンはどうしてここにいるの!?」「登校したら、校門であなたと穴織くんがバラがどうとか言っているのを聞いて、何かヤバそうだなと思い、即、帰宅しました」「……そこは、私のために『サポートしてやるか』的な流れにはならないんだね」

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